一般歯科医プログラム


T 概要
 本コースは、診断編(診断・治療計画立案)と臨床編(治療I編、U編)の2コースから成り立ちます。診断編は、2022年秋開講予定です。臨床編の内容については参考資料Iをご参照下さい。
 診断編は、原則として月2回、計11回から12回の77時間を予定し、その日程は参加希望者の先生方と協議して決める予定です。内容は下記の通りです。

2022年度診断編開講案内

I.コース概要および本コースの到達目標と研修内容
 最近、在ってはならないとされている医療過誤の報道をよく耳にします。これは氷山の一角との声もありますが、社会の医療に対する考え方が確実に変化してきているのは事実です。その一つに、問題・患者志向型の医療Problem(patient) oriented system;POS)があり、この概念は、歯学部の学部教育にも導入が積極的に図られています。
本研修会は、今日の医療概念の変化をふまえ、問題・患者志向型(POS)の医療の概念を臨床歯科矯正学に導入し、矯正治療の診断、治療戦略・治療戦術を考え、かつ演習を通して問題志向型診断法、治療技術を学ぼうとするものです。また、矯正臨床で必要な歯の移動、顎の移動を理解する上での基礎知識(発生学、成長発育、顎運動機能、歯周病、修復、補綴学などの他科との関連等)についても触れ、ホームドクターとして適切な助言、診断を下すことができるようになることを研修のゴールとしております。
臨床編では、矯正治療の適用範囲を飛躍的に広げているMini-screwに至るまで詳細な治療戦略に触れる予定です。さらに、デジタル画像の理解を深める目的でデジタルカメラ(一眼レフを含め)の使用方法、パソコンへの転送、Affinity Photoによる画像処理や加工(レタッチ)、Affinity Publisher による矯正用資料の作り方、PowerPointによるプレゼンテイション、さらに検査診断結果・治療計画報告書の文書化の仕方などを学びます。

U.研修内容概略
 1.オリエンテーション
 21世紀の矯正臨床の方向性を踏まえながら本研修の特徴、進め方について解説してい
きます。また、JOP(矯正臨床ジャーナル)に連載された「臨床歯科矯正学を見直そう」をガイドブックとして使用し、その日の講義内容を予習し、あるいは復習することによってPOSの矯正臨床をより早く、より確実に実践できるように配慮しています。
 2.研修講義内容について
  1)研修達成度確認のための問題演習
    研修前の各自の矯正臨床に対する考え方、矯正学の知識量を認識し、研修後の成
   果と比較していきます。
  2)矯正治療とは
    矯正治療が社会的に認知されている昨今の社会情勢および最近の歯科矯正学の進
   歩、発展について触れます。
   (1)矯正治療と社会の関わり
   (2)矯正治療の現況
  3)POS(問題志向型診断)について
    社会の医療に対する考え方の変化に呼応した診断方法について考えます。
   (1)問題志向型診断とは
     ・プロブレムリストの作成から治療計画立案までの概論
     ・問題解決のための治療方法の検討
     ・各治療方法の利点・欠点の検証
     ・治療結果と予後の予測
   (2)問題点発掘の方法について
     6つの項目からの検証
     ・顔貌
     ・歯、歯列素材
     ・近遠心関係
     ・垂直関係
     ・Transverse
     ・その他(成長発育、顎機能、歯周疾患、悪習癖等)
   (3)診断要項、治療目標、治療方法の立案
     ・リスク & ベネフィットとは? Treatment alternatives とは?
   (4)最終治療法決定方法について
     ・prediction の意味は?
  4)デジタル画像の扱い方
   (1)デジタルカメラの扱い方
   (2)デジタル画像の扱い、その処理の仕方(Photoshopの使い方)
   (3)症例報告に必要なPowerPointの使い方
   (4)パソコンによる症例報告の実際
   (5)診断資料の作成の基本(DTP作業について)
 3.研修演習、実習内容について
 POS(問題志向型診断)を実践していく上での基本となる矯正用診断資料の意義、作成方法について再認識し、その実際を学んでいきます。
  1)矯正用診断資料の意義とその作成法(デジタル画像の扱い方を含め)
   (1)顔面、口腔内写真
   (2)矯正用診断模型
   (3)頭部X線規格写真分析法
   (4)Set-up模型
   (5)治療ゴールシュミレーション
  2)診断演習法
    米国ワシントン大学で行なわれている手法、ABO提示症例を参考にしながら
プロブレムリストの作成から治療目標の設定、最終治療方法決定に至るまでの
実際の診断演習を行ないます。さらに、パソコンを用いて症例報告の仕方を学
んで頂きます。
3)ワイヤーベンディング練習
第1回から11回を通して、基本から角のワイヤーに至るまでの屈曲練習を
行いますが、多くは宿題になります。研修会では、屈曲の意味、ワイヤーの
力学的特性などの講義が中心となります。

治療編

治療I編:Phase Iの治療の概要および到達目標
 矯正治療の最終的な目標は、乳歯列期から混合歯列期を経たのちの永久歯列における正常な咬合関係の獲得と言えます。したがって、 早い時期に不正咬合が認められ、かつその不正咬合の改善が将来の永久歯咬合の育成にとって必要と診断されたならば、矯正治療の開始時期は早まると考えられます。一般的にこのような早い時期の治療は、治療の内容により予防矯正preventive orthodontics(プリベンティブオーソドンティクス)、抑制矯正interceptive orthodontics(インターセプティブオーソドンティク)などと呼ばれ早期治療Early treatment あるいは第一期の矯正治療として捉えられています。
 本コースでは、診断編で学んだ問題志向型の診査、診断に基づく治療方針、治療計画によって第一期治療が必要となった場合の矯正装置について、その特徴、選択方法、使用方法を学ぶものであります。また、同時に第二期の矯正治療で使用するマルチブラケット装置であるSWAについては、その概念を学びます。なお、デジタルの知識、技術を治療編においてもパソコン、デジタルカメラ、メール等を活用し、その利用方法を一層理解して頂き、画像の処理、パソコンの使い方に慣れ、PowerPointを用いて症例報告をして頂く予定です。

U.コース内容
 1.講義
  1)各時期の不正咬合の特徴とその対策
   ・乳歯列、混合歯列(前期、後期)、永久歯列(young adult、adult)
  2)矯正治療の種類について
   ・早期治療、予防矯正、抑制矯正、限局矯正、MTM、本格矯正、成人矯正
   ・第1期治療(第1段階治療)、第2期治療(第2段階治療)
  3)矯正装置の種類とその意義について
   ・Removable(可撤式)とFixed(固定式)appliances(装置)
   ・Orthopedicな装置とOrthodonticな装置
   ・Comprehensiveな装置とlimitedな装置
  4)保定処置について
   ・保定の意義
   ・保定の種類と装置の種類
  5)Comprehensive orthodontic appliances
   ・各種装置の歴史とその役割
   ・SWA
 2.問題志向型診断の復習とその実践
 3.装置製作に際しての基本技工
  1)Fitting bands & cementation: seamless bands, prewelded bands
  2)Bonding: conventional, reinforced glass ionomer cements
  3)Bending wires: retainer wires
  4)Soldering: free hand method
  5)Handling resin: retainer fabrication
 4.デジタル画像の基礎と応用
  1)デジタル画像の基礎
  2)Photoshopによるデジタルカメラ等の画像の加工・修正・処理法の習得
  3)PowerPointによる症例報告の実際


治療U:本格矯正治療のコース概要および本コースの到達目標
 矯正治療の目的は、生活の質の向上や健康志向型な生活を送るために歯並びをphysical and emotional fitness and wellnessから捉え、患者さんの要望、希望を含めて心身の健康を回復、維持、改善することと考えられます。そして、矯正治療のゴールは、乳歯列期から混合歯列期を経たのちの永久歯列における顎運動機能などの正しい口腔機能を営ませること、顎顔面口腔の審美性の回復や改善を図ることなどと言えます。
 したがって、乳歯列期、混合歯列期の治療では、初診時の問題が将来の永久歯咬合の育成にどのような関わり合いをもつかを検討したうえで、治療目標、治療計画を立てる必要があります。しかし、第一期治療により顎口腔系の環境を整えたとしても,将来の永久歯列咬合を理想的な状態にすることを保証するものではありません。後続永久歯萌出後の永久歯列に何らかの問題が存在することは多いにあり得ることです。この場合には、第二段階の治療として本格矯正といわれるマルチブラケット装置にて最終的な治療目標を達成し、治療の目的、ゴールを達成することになります。
 本コースでは、この本格矯正治療を行うための装置としてSWAを取り上げ、問題志向型の診査、診断に基づいて導かれた治療戦略、戦術を実践していく上で必要となるSWAの特徴、使用方法(typodontにて)をマスターすることにあります。タイポドントでの歯の動きを逐次デジタルカメラで撮影し、研修期間中に各自の診断、治療計画、実際の歯の移動様相等についてパソコンを用いてPhotoshopにて画像の修正、処理をし、かつPowerPointを用いて報告し、診断の妥当性、ポジショニングの良し悪し、ワイヤセレクション、治療目標の達成度合い等を検証し、理解を深めて頂きます。さらに、長期経過症例を供覧し、保定処置の重要性を認識して頂き、長期的展望に立った矯正治療の治療戦略、治療戦術に何が大切かを考えて頂きます。

U.コース内容
 1.講義
  1)SWA誕生までの本格的矯正装置の歴史
  2)SWAの基本概念(Standard edgewise 法との違い)
  3)SWAによる基本治療術式
  4)保定処置について
   ・保定の意義
   ・保定の種類と装置の種類
  5)長期経過症例からの評価
 2.問題志向型診断に基づく治療計画とその実践
 3.装置製作に際しての基本技工
  1)Fitting bands & cementation: seamless bands, prewelded bands
  2)Bonding: bracket positioning
  3)Bending wires:first, second and third order bends
  4)Wire selection:
  5)Ligation:
  6)Debanding & debonding
  7)Fabrication of retainers
 4.Typodontによる歯の移動をデジタル画像で捕らえ、各自パソコンでの経過報告をし
  ながらの実習(Photoshop、PowerPointを用いて)
  1)Fitting bands & cementation
  2)Bonding brackets
  3)Rationales for tooth movement
  4)Modalities for tooth movement
 5.Mini-screwを併用した絶対固定での歯の移動
  1)TADs(Temporary Anchorage Devices)に必要な基礎知識とは
   ・再生医療とは(ES細胞、iPS細胞、未分化間葉細胞とは)
   ・インプラントとMini-screwの違い
  2)Mini-screw併用の場合の治療戦略、治療戦術について
 6.DTP作業による診断報告書の作成
  デジタル画像についての知識と技術に一層磨きをかけて頂く同時に、PageMaker、InDesign(Photoshopでも可)をもちいてDesk Top Publishing(DTP)による診断資料の作成方法についてもその概念を学びます。
 7.長期経過症例から何を学ぶか
 動的矯正治療終了後、20年、30年を経過した症例を顧みて、根拠ある矯正治療とは何かを考えて頂きます。その場限りの矯正治療ではなく、顎骨の加齢に伴う変化、すなわ ち成長発育、老化の中で歯列の変化に対しての保定の意義、その方法について学びます。

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