矯正専門医プログラム


T.はじめに
積極的に歯並びを治そうとする人々が確実に増え、矯正治療が広く社会から認知されるようになった要因の一つにQOL(quality of life;生活の質)の向上やHealth Oriented-Life(健康志向の生活)を挙げることができます。綺麗な歯並び、清々し笑顔が健康で快適な生活をおくる上で重要な役割を果していると多くの国民が感じるようになった結果とも言えます。
一方、歯科矯正専門医、あるいは矯正治療に携わる一般歯科医の数も増加し、それに伴い治療内容、治療技術などに大きな違い、差を生じ、その結果、医療過誤、訴訟も増え、社会問題となっているのも事実です。
このように近年、矯正治療を取り巻く環境は大きく変わり、特定の教育機関で学んだ知識や技術だけでは適切な助言や診療を提供することが難しくなってきています。その傾向は、セカンドオピニオンを求めて来院する患者さんの増加やネット、チラシ広告に「何々法の矯正治療法」なる装置主導型の講習会が氾濫し、若い先生方が受講生の中に多く含まれることからも窺い知ることができます。
臨床歯科矯正学の進歩発展は目覚ましいものがあります。歯を動かすための装置(材料、道具、機材など)や使用方法(テクニック)だけではありません。何故、矯正治療をするのか、どのような歯並びを求めるのか、などの基本的な患者さんの要望、関心事を語りから捉え(NBM;Narrative -based Medicine)、それを治療計画に反映し、それをどのように患者さんに伝え、情報を共有するかも重要となっています。各種矯正装置は治療目標を達成させるための手段で、その適用根拠を明確にし、決して装置ありきの診療にならないことへの認識も高まっています。
本研修会では、従来の疾患志向型の診断、治療によるのではなく、Weed、Proffitらが提唱した問題志向型の診断、治療をベースに、内容を治療戦略と治療戦術に分け、戦略では、NBMを診療指針としてQOLの回復、向上、健康志向型の生活の実践に繋げる患者中心主義(POS)による診断、治療計画立案の詳細について触れ、さらにABOのシナリオ方式による症例検討を通し、治療目標達成のための治療選択肢を導き出す論理的な考え方を学びます。また、戦術では、治療目標達成のための手段、手法の詳細について解説します。特に、上下顎第一大臼歯関係T級の優位性からPhase Tでは、Functional Appliance を主体としたGrowth modificationの意義、その応用を、またPhase U(本格矯正治療)では、絶対固定を実現したTADs(特に、Mini-screw)併用を主体としたSWAの最新の応用法の理論と実際を学び、いかに効率よく、効果的に治療目標を達成し得るかを詳解します。
講師の略歴、研修会コース概要等もご参照頂き、ご興味、ご関心を持ち頂けたならば是非ご参加を検討して頂ければ幸いです。なお、詳細、不明な点、ご質問等は遠慮なく電話でも、メールでもお問い合わせ下さい。

U.コース概要
本研修会は、Drs. Weed、Proffitら提唱した問題志向型(POS)をベースに診断編(診断・治療計画立案)と治療編(治療T編と治療U編)の2部からなり、矯正専門医としてより適切な助言、診療を提供できるように構成されています。

* 矯正治療の意義、目的の見直し、患者中心主義へのシフト
1)歯並びの悪いこと(一般に不正咬合と呼んでいる)は、病気(disease)とは言えるか
2)歯並びの問題をWHOの健康の定義から考える
3)矯正治療の正義(社会での矯正治療の本来持っている真価、長所)とは何か
4)疾患志向型(DOS)と問題志向型(POS)との違い
5)NBM(Narrative -based Medicine)を診療指針とした問題志向型の診療とはどういうものか
6)その他

* すべての資料の共有化
1)診断・コンサルテイション用のデジタル資料の意義とその採得法
2)デジタル資料の画像処理と画像編集(Affinity Photo、Affinity Publisherによる)
3)診断資料のプレゼンテーション、検査・診断結果報告の情報共有の在り方
4)その他

* 成長発育の理解とその知識の臨床応用(長期経過症例をベースとしての解説)
1)骨の発生から骨の成長発育、外力応答性に至るまでの骨の科学への理解
2)PhaseT(第一段階の治療)治療でのGrowth modification について
3)各種矯正装置を骨の科学から理論的な検証、確認
4)骨の科学、特に顎関節構成体の外力応答性からの顎運動機能の検証
5)その他

* 絶対固定とSWAのコラボレーション
1)絶対固定の意義とその臨床応用
2)Tweed 以来の固定の概念を中心とした治療戦術の歴史
3)Mini-screw の挿入術式と生着、離脱の理論的根拠
4)Mini-screw併用治療におけるSWAの果たす役割
5)その他

* 長期経過症例からの治療成績の評価
1)初診から30年、40年経過症例の供覧
2)長期経過症例から見えてくるもの
3)保定処置の意義とその実際
4)後戻り症例の再治療症例の供覧
5)長期観察を可能とする戦略とは
6)その他

* 徹底したフォロアップ
1)リフレッシュコースへの参加:Biological な知識、診断能力、治療技術のフォロアップ
2)正規研修へのオープン参加
3)常時メールによる症例相談
4)矯正臨床すべてに係るコンサルティング
5)その他

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